平成26年11月

拙著の着物のお手入れ本が先月発売になりました。 本当に有難いことです。 もともと当店は悉皆屋(しっかいや)という、着物の誂えやメンテナンスが専門のお店です。 それらの仕事を通して、着物の汚れの中で一番の大敵である汗ジミを何とかしたいと考え『満点スリップ』を生み出しました。 悉皆とは「なんでもござれ」という意味です。 京都の仕事は全てが分業制で、それぞれが自分の仕事以外は出来ない、わからないというのが普通です。 ですから着物を見ればだいたいのことがわかり、どんな作業をすればいいかというご提案をする役目が必要でした。 それが悉皆屋なのです。 たとえばシミがあるとします。 シミ抜き職人さんは当然そのシミを落とそうと技術を駆使するわけですが、場合によってはシミを抜くより振り金を施すとか柄を足してシミが見えなくなるような加工を加えたほうがリーズナブルに済み、またはより素敵になる場合もあるのです。 そのような詳しい比較検討に関しては悉皆屋が専門で、そのための知識と知恵を蓄えているのです。 着物屋、呉服屋さんはたくさんありますが、実は、マルチにお見立てをする悉皆屋はあまり多くはありません。 特に毎日のように着物を着ている悉皆屋と言えば、本当に数えるくらいかもしれません。 私は呉服販売の仕事より悉皆の仕事の方が好きです。 なぜなら想像する楽しみが大きいからです。 「若い時の訪問着を今から着られるように直してほしい。」 などという仕事がものすごく好きです。 こういう時が腕の見せどころで、私にしか出来ない仕事なのです。 お客様のお顔を見ながら『このお客様なら、どんなお色が似合うだろう…、どんな帯をお持ちなのだろう…』などと想像し、頭の中で、着せ替えをするのです。 基の色に○○の色を重ねたら、どんな色になるだろうか…、この生地は色の入りがいいから気をつけないと…、など、今までの経験がものをいう時なのです。 そしてこの色!というお色が私なりにひらめき、こちらの提案そのままのご注文を受けた時の幸せと言ったらありません。 そして、それが仕上がってきてお客様にお見せする時、この時が最高にワクワクします。お客様はどんなに喜んでくださるだろう!そんな思いでお客様のお顔を覗きこむのです。 この感覚、この喜びは呉服屋さんでは味わえない喜びです。 それもこれも経験を積み重ねて今があるおかげです。 初めはさっぱりわからなくて、怖くて仕方がなかった悉皆業ですが、この商いのおかげで肌着メーカーとして立つことが出来ましたし、出版する幸運にも恵まれました。 人生、本当に何が巡ってくるのかわかないものですね~。 着物まわりのお手入れ…