着倒して穴が開いたきものを羽織にリメイク
お気に入りで何度も着たきものや、お母さまやお祖母さまから譲り受けたきものなど、愛着があって手放せないきものってありませんか?
たとえば、着倒して擦れや穴があったり、日に焼けて色が落ちていたり、そんなきものもリメイクすることで、きもの生活を楽しむアイテムに復活できますよね。
今回は、30年以上着倒して穴が開いたきものをどのような工夫で羽織にリメイクできたのかをお伝えします。
気仙沼で京染悉皆屋が元々の仕事
たかはしは、もともと肌着屋が専門ではなく、まったくのド素人から異業種参入で肌着メーカーになりました。
もともとの仕事は、京染悉皆屋です。きもののお困りごと相談所のような、すべて見渡すというのが悉皆の意味です。御誂京染たかはしとして、今でも宮城県気仙沼市で行っています。
▼悉皆(しっかい)についてはこちらをご覧ください
https://wanomise.k-takahasi.com/sikkai
新社屋に移転したとき、お店の名前を「wanomiseたかはしきもの工房」にし、たかはしきもの工房に統一しましたが、業務としては肌着メーカーよりずっと前から、洗い張りをしたり、染み抜きをしたり、染め替えをしたり、白生地から誂たりということを行ってきました。
それらを見立てられるような物の良し悪しだったり、お客さまにどんな色が似合うのか、どうリメイクしたら有効活用できるのかなど、きものに関するあらゆる見立てが本来の仕事です。
そこで今回は、悉皆業で培ってきた見立てのワザも駆使し、30年以上着倒して傷んだきものを羽織にリメイクしていきます。
傷んだきものを羽織に仕立て直す
20代の頃に仕立てた、有松絞りの竹田庄九郎さんの紬です。
30年以上着てきて、洗い張りは少なくとも二回はおこなっています。洗い張りをかけるとき、八掛が切れてしまっていたので、相当着ています。
この紬は、きものには仕立てられない状態まで生地が傷んでしまっています。
どのくらい傷んでいるのかというと、生地が擦り切れてしまい白くなっています。
もっとひどい箇所だと、穴ぼこだらけです。
きものにした場合、どの部分になるかというと脇の部分です。帯や帯板とも擦れますし、手で何度も触ります。
そのため生地が切れています。下前の右側の前の部分にあたります。
衿肩あきというのがあって、生地が後ろに倒れるのが繰り越しになりますが、上前もしっかり穴が開いてしまっています。
後ろ側の身ごろは、前側に比べると手を突っ込まないのでまだ傷みはマシですが、ちょっとだけ穴になっているところもあります。
体が動くことで生地に力がかかりますし、ドアノブなどに袖を引っかけたりして、多分そのために傷みがひどくなっていると思います。
きものの裾は八掛が守ってくれますが、脇はきものの生地の裏側に胴裏になるので、直接きものに傷みが行ってしまうところです。きものを着倒すと一番きものの本体で脇の部分が擦り切れます。
穴や擦り切れ以外にも、日に焼けることで縫い目の中と外で色が完全に変わってしまいます。
この紬だと、本来は濃いグレーのような色ですが、日に焼けてだいぶ色が落ちてしまっています。
ここまで穴が開いたりして傷んだきものは、寸法をつめて縫う場合はいいので、体型が小柄な人に譲る場合もあります。ただ、ここまでひどいと人に譲るのにもあげるにあげれないなと思っています。
たとえば、たかはしのスタッフで小柄な人で似合いそうな人がいれば、傷んだ箇所を避けて縫えば全然問題ありませんし、生地がものすごいこなれているので最高の着心地になるので、もらってもらうこともあります。
しかし、このきものは、ここまでひどいとねっていう気持ちもありますし、本当に好きなきもので、人生をともにしてきたっていう感じもあるので、もう一回着たいなって思ってこれをどうしようかと考えました。
男仕立てにすることで着姿もスッキリ
同じ肩幅で仕立ててしまうと、傷んでいる部分が脇に来てしまうので、男仕立ての羽織にすることにしました。
なぜかというと、男物のように縫ってしまえば、脇の傷んだ部分が飛び出る心配を考えなくていいからです。
幸いにも元々の絞りがオレンジ色なので、元々の色なのか日に焼けた色なのかがわかりにくくなっています。汚れも日焼けも見えにくいです。
実は、上前にも穴が開いてて、なぜこんなところに穴が開くんだろう?というようなところに穴が開いています。膝下あたりの部分なので、どこか硬いところに何度もあたったことで擦り切れるような形になったのかもしれません。
穴が開いていても返りに入っていくので、全然気にならないのでかけつぎもしません。かけつぎが要らないのも幸いなのは、袖に焼けがなかったためです。
もし袖に焼けがカキッとはっきり出ていると袖幅を出すことが大変でした。焼けがないので袖幅をめいいっぱい出して、身ごろの幅を削ることにしました。
穴が開いて擦り切れていたきものを男仕立てにして、袖を身ごろにくっつけました。
なぜかというと、中に擦り切れた部分を完全に入れて仕立てているからです。
羽織は身ごろを重ねないので、幅が狭くなってもかえってバサバサしなくてスッキリ見えませんか。
肩からつめてもらって、穴の開いた部分まで中に入って、下ろしてもらっています。
普段着る羽織よりも身幅が少し狭くなっていて、身幅を後ろにちょっと出すことで、後ろでちょっと補いつつ、穴が開いて切れていた部分を完全に中に入れる形で仕立てています。
20代からずっと愛用してきたので、きもの人生を一緒にいるような存在で、本当にかわいくてかわいくて、人にはあげられないっていう感じで着倒してやろうと思って最後羽織にしました。
みなさんも大好きなきものがあると思います。たとえば赤いきものとか、なんか手放せないのよねっていうきものがあると思います。
きものの一番の醍醐味は自分で着て育てて、ともに歩いてきたという思いになれるとか、お母さんのきものやおばあちゃんのきものだったり、おばちゃんのきものだったり、母から娘に贈るきものだったり、この思いを形にしたようなきものが、非情に大きな価値だと思っています。
これはお金では買えない最高の楽しみですから、みなさんも一緒に楽しんでもらえたらいいなと思っています。
着られないけど大好きで手放せないようなきものがあったら、ぜひ、創意と工夫でモノにしましょう。
きもの人生を一緒に歩んできたきものへの愛情たっぷりの女将による動画はこちらをご覧ください。
【きもののリメイク、意外と自由にできるんです!着倒したきもの、〇〇にする⁉】たかはしきもの工房「ズボラ女将の和装の常識を斬る!」
更新情報はInstagramで発信していく予定です。
Instagramを登録されている方は、是非「たかはしきもの工房…
たかはし女将、きもの警察を語る
日常できものを着ていて、「もしきもの警察に出会ったら…」と思ったことはありますか?
一般的に「きもの警察」という言葉は、良くないイメージで受け取られていることが多いと思います。
たとえば、帯が曲がっている人がいたとき、「帯が曲がっているので、直しますか?」と聞いて、帯を直してあげた場合、人によってはこの状況も「きもの警察」と感じられることもあるのかもしれません。一方で、きもの警察をきもの警察するような状況もありますよね。
今回は、きもの警察とは誰のことだろうか?というのではなく、きものをもっと楽しむために、きもの警察について、本気で考えてみました。
結論、きもの警察も愛
きものを楽しむ上で、あれダメ、これダメという言い方をもうやめたいと思いますし、お互いにしたくないなと思っています。なぜなら、きものを着ているだけで嬉しいし、着てくれただけで嬉しいからです。
たとえそれがどんなことであっても、あらら?ということであっても、きものを着てくれていると嬉しいし、もし好きじゃない着方であったとしても、きものを身に纏っているだけでヨシ!って感じです。
これを土台として考えていくと、結論、きもの警察も愛です。
つまり、きもの警察と言われてしまうかもしれない人って、きものを良くしたい、きものをきれいに着ていてほしい、着方を間違っていたらあなたが恥をかくよと、思っているのだと思います。
結果として、取り締まるという表現になっているのは、知っている人が知らない人に教える体になるので、おのずとマウントを取ってしまうような感覚があって、それが言葉や態度にちょっと出てしまうのではないでしょうか。
震災後の気仙沼で、きもの警察と言われるような状況に遭遇したことがあります。地元で私のことを知ってくれている人もいたり、きもので歩く人が少ないために、「あの人は、たかはしの人」ということが、ある程度は知られていると思っていました。
ある講演会に参加したとき、時間ギリギリに行ったため、バタバタと走って会場に入って座る席を探していました。
すると、「ちょっと」と声をかけられ、後ろから両肩を掴まれて柱の陰に連れていかれました。「お太鼓が曲がっています。私、着付け講師ですから直しますね。」と耳元で囁かれ、帯を直してくれたのです。
急いで車から降りるとき、背中をこすって帯が滑ってしまったのでしょう。きもの警察と言われる場面に出会えた嬉しさをこらえつつ、「ありがとうございます」とお礼を伝え、その方とわかれました。
たぶん耳元で囁かれるのが怖いと感じる場合もあるかもしれません。声をかけてくれた方にしてみたら、もし大きい声で話しかけたら相手に恥をかかせてしまうと思ったでしょうし、1分1秒でも人の目に触れる前に帯を直してあげようという親切心だと思うのです。
知らない人から囁かれて帯を直されたという状況だけを聞くと、陰湿な感じにも受け取れるのかもしれません。もちろん、捉え方もあると思います。
ただ、きものについて言わなきゃいけない空気感が、しきたりきものに囚われていた時代にはあったと思っています。
拙著『きものの不安をスッキリ解決』にも書きましたが、戦後の昭和30年代~60年代あたりは、しきたりきものに則ってきものを格上げして、高額のきものを売って、着付け教室もバンバン儲かった時代がありました。着るものとしてのきものの価値から、違った路線に行ってしまい、日常的に着るものではなく、権威主義になっていた時代がありました。
権威主義に巻き込まれた着付け教室で教わった人たちも権威的に教わるので、権威的になるという図式があったように思います。個人の問題だからではなく、そのるつぼにドハマりした人たちが多かったですし、蔓延してしまったと思います。
自由にきものを楽しむようになって広がる楽しさ
今は非常に自由度が増して、自由にきものを楽しむようになってきて、本当にありがたいなと思います。
たとえば、若い方もインスタライブやYouTubeで発信していますし、初心者ですと言いながら発信している方もいるし、いろんな着合わせ方を提案する方も出てきて、人口の多い地域ではかなり自由度が増しています。
きものでどんなことをやっても、人からギョッとされるような目で見られませんし、驚いたような顔をされることはないでしょう。逆に素敵だねと言われることが増えたり、ここ5年ぐらいで相当変わったと感じています。それを拍手喝采して見ています。
そんな中で、しきたりきものを語る人が肩身が狭いという図式を感じることもあります。
しきたりきもの、日常きもの、どちらも素晴らしいですし、まさに二大巨頭だと思います。
たとえば、しきたりきものしか知らない方が、日常きものを覗いてみると幅が広がるでしょうし、日常きものしか知らない方が、しきたりきものを知ることによって新たな美意識が生まれたり、美学が磨けることがあると思います。このように、しきたりきもの、日常きもの、どちらもお互いにリスペクトの関係なのではないでしょうか。
誰もがお互いに奨励する意識になれば、きものがますます楽しくなりますよね。
そんな世界に行きたいですし、そうなれば良いなと思っている方も、実際に増えていると思います。
しきたりきものを語る方も必要ですし、自由度をどんどん広げていく日常きものもすごくいいと思います。その両方を知ることによっていろんな幅が生まれて、きもの自体やきものを愛する気持ちを軸にして、世界が広がっていくと思っています。
正しい・間違いではなく、どれを選ぶのかが大切
何が正しいか間違っているかをジャッジするのではなく、どれを選ぶのかということが大切です。これはきものに限らず、人のことも、物事も、すべてジャッジしないことだと思っています。
何かに対して、ただ嫌だと言い切ってしまうと、背中を向けたくなってしまいます。
私は好きじゃないけれど、ちょっと望まないけれど、選ばないけれども、それを好きだという人もいるのが当然だというところを、少し探ってみると、意識が凝り固まっていることに気づけたりすることもありますよね。
日々、自分の頭の輪っかに愕然とすることがあります。たかはしのスタッフも若い子が増えてきて、ハッとすることが結構あって、それは自分の許容範囲の狭さだなと反省しています。
許容範囲を広げながら、いろんなものを楽しもうと思ったら、きものはますます果てのない沼だと思います。
たかはしの商品が絶対いいわけではないことをわかっていますし、大嫌いという方がいてくれていいと思っています。選択肢を選ぶひとつの基準になれば、その中で選んでくださる方がいれば本当にありがたいです。もし、嫌だという方がいたら、その理由を聞くことで勉強になることがいっぱいあります。ですので、何があっても良いよねと思っています。
もし、怖く言ってしまっている場合は、ぜひ優しく言ってあげてください。もし、「あなたそれじゃダメよ」と言ってしまうなら、「こうするといいと思うんだよね」と伝え方をデザインすることで、きもの警察ではなくきもの師匠になるのではないでしょうか。
きものについて教わるなら、優しい先輩、優しい頼りになる先輩に言われた方がいいですよね。
これからは、きもの警察という言葉を、愛を持って捉えていきたいなということで語ってみました。
きもの愛たっぷりの女将による動画はこちらの動画をご覧ください。
【愛すべき、きもの警察!たかはし女将、きもの警察を語る】たかはしきもの工房「ズボラ女将の和装の常識を斬る!」
更新情報はInstagramで発信していく予定です。
Instagramを登録されている方は、是非「たかはしきもの工房…
たかはしきもの工房の品ご紹介の会
群馬県
2025年1月25日(土)~27日(月)
会場
群馬県太田市内ケ島町1435
株式会社 橋本絞店
期間
2025年1月25日(土)~27日(月)
時間
10:00~18:30
入店情報
25日、26日のみ、当店女将がお待ちしております!
【入店時間】
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七緒の「和トセトラ」2025 梅春
東京都
2025年1月22日(水)~27日(月)
会場
東京都中央区日本橋2丁目4−1
日本橋高島屋S.C. 8階
期間
2025年1月22日(水)~27日(月)
時間
10:30~19:30(最終日のみ18:00まで)
入店情報
全日、当店アドバイザーがお待ちしております!
【入店時間】
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