悉皆屋、この至福の時
今回、高田から始まって志津川、千厩などできものメンテナンスの相談会を初めてやっている。動機は何も知らない呉服屋が売り上げ目的に悉皆に手を出し始めたから。
基本的に悉皆屋は呉服屋も出来るが、呉服屋は悉皆屋にはなれない。
なぜって、悉皆はとっても面倒だから。目利き出来ずに悉皆に手を出せばお客様に迷惑をかけることになるのは必定!そんなこと許せない っていうのが動機。
自分ちが一番親切だと思っているから困ったものだ(^^;)
おかげで高田でも志津川でもとてもステキな出会いがあった。お客様にとって大変思い入れのあるすばらしいお着物を再生するお仕事を頂いた。
志津川では……。
昔初めてご自分で作った訪問着、お友達に貸したらしみだらけにされてしまい、どこのクリーニング屋さんに持って行っても断られ、それでも捨てることも出来ずにいたという思い出の一枚。
本当にものすごいシミでしかも30年以上も経っているのですっかり変色してしまっている。これをきれいにした上で地色を引き臈纈ふぶきをたたき、柄の部分を彩色するということで60歳を超えたというお客様のこれからの一枚に再生させるというもの。
こういう仕事が一番楽しくうれしい。お客様もとても喜んでくださり、出来上がりを楽しみに待っていると満面の笑顔でおっしゃっていた。
着物には不思議な力が宿っていると私は思っている。普通には感じることの出来ない郷愁のようなものを、着物一枚から感じていらっしゃる方が多い。それはその着物をまとったときのお気持ちに対するものなのか、その時の自分自身に対する愛おしさなのか。
母から子へ、子から孫へ、ということも。
その思い入れを大事にすると言うことが悉皆屋に求められている一番の使命だろうと思っている。それがとてもうまく表現出来たとき、お客様と同じに、一緒に、至福の喜びを感じることが出来る。
この思いは呉服屋さんのそれとはまた違うもの。そこをわかって悉皆に手を出すなら許すのだけど。