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きもののお仕立て代、安い?高い?

きものを着はじめてすぐはあまり気づきにくいかもしれませんが、少し着慣れてくると着るきものによって着ごこちが違うことを感じることもあると思います。

たとえば、この違いは生地の問題なのか、袷だからか、単衣だからだろうかと考えるうち、仕立ての重要性に気づく人が増えてきています。

今回は、きもののお仕立て代の考え方や選び方について、お伝えします。

着ごこちを作る反物を大切にする仕立て

ここ10年で、きものを着る人が増えましたが、それまできものを着ない時代が長かったため、その間に仕立てに対する認識が相当衰えたと感じています。

お仕立ての仕上がりがキレイであることはもちろん大事ですが、たかはしで一番大事にしているのは着ごこちです。

仕上がりがキレイではないけれど着ごこちがよいきものは存在しません。キレイな仕立てでありつつ、着ごこちも考慮してくれる和裁士さんや仕立てを大切にしたいと考えています。

京染め屋としては、反物に傷をつけないことがとても大事だと思っています。

きものが仕立てられて納品されるときには見えませんが、何十年も後になってから生地に傷がついていることに気づくことがあります。

たとえば、寸法を5分広げようときものを解いてみたら、生地にチャコペンで線が引いてあったり、ヘラで傷つけられていたりして、洗い張りしても修復できない傷が見つかることがあります。

これは反物への愛のなさの表れだと思います。きものは、着まわしたり、仕立て直したり、代々受け継ぐことができます。だからこそ、反物を大事にする和裁士さんや仕立て屋さんを大切にしたいと思っています。

きものは、裁ち落としで余分なはぎれが出なければどこも欠けていないので、解いて一枚の反物に戻すことができます。

洋服の場合、型紙に合わせてカットしてしまうため、生地に戻すことはできません。生地をカットすることで余分を無くし、体に沿うラインを作ります。

きものは直線だけで作られるわけではありませんが、たとえば、衿元がキレイに畳みこんだ中でぐちゃぐちゃにならないようにも配慮しながらつけられています。繰り越しを切って裏表どちらに返しても問題がないようになど、きものは、いろんな工夫がされています。

一枚の反物を無駄にすることなく工夫がされてきたきものなので、仕立ての際に、印で傷が付けられてしまうのは悲しいです。

仕立て直さないと決めたものは、どうでもいいと考えるのもひとつだと思います。
たとえば、ミシン仕立てにするか、腕のいい仕立て屋さんにするか、そこそこの仕立て屋さんにするのか、選択できるのであれば、自分はどうしたいのか、考えましょう。

たかはしでは、直接仕立て屋さんと繋がっていて、Aさん、Bさん、Cさんと振り分けながら仕立てを頼んでいます。もし万が一、何か問題が発生しても対応できるような仕組みを作っています。

業者さんに一括して依頼するお店もありますが、業者さんの個性を信頼して依頼する場合もあります。それぞれのお店や業者さんによって違うので、仕立てについて考慮した上で、どこに依頼するかを選んでほしいと思います。

たとえば、安く仕立てたいのであれば、とにかく値段が安いところにお願いすればいいですし、着ごこちを重視したり、反物を大事に考える人にお願いしたいのであれば、そういう和裁士さんやお店を探して繋がることも大事だと思います。

きものの仕立て代が安すぎると言える理由

足かけ7年、和裁職人大賞を東京キモノショーで発信していて、星獲得者を毎年輩出しています。

和裁士さんの数が減少していることや和裁士さんを取り巻く環境が懸念材料としてあって、ずっと何かで発信したいと思っていて実現しました。

最近では、YouTubeやFacebookでも、和裁職人を守ろうという動きが見られますが、これは本当に大事なことです。

和裁士さんは高価な反物にはさみを入れるリスキーな仕事で、技術を身につけるためには学校で4年間学び、その後も一人前になるまで格安で使われるような修業期間があり、プロへの道は厳しいです。

国家資格でもあり高い技術を持ちながら、時給1000円に満たない賃金で働いている和裁士さんが多いのが現状です。

縫製工場でも、時間当たりの生産量が重視されますし、手も荒れてしまうことが多いです。

早く縫うことを優先すると粗雑になってしまったり、丁寧さを優先すると一枚当たりにかかる時間給が高くなる問題を、せめぎ合ってどこに落とし込むのかがお店や業者の手腕にもなります。

では、きもの一枚を縫うのにどれくらいの時間で縫えると思いますか。

反物によっては耳がつっていたり、地の目が曲がっていたりすると、地のしに1日をかける方もいらっしゃいます。

切って済むのであれば時間がかかりません。反物はものによって、ラッキーと思える素直な反物と、強情っぱりな反物と当たり外れがあると思います。

おそらく一枚のきものに平均20時間から30時間はかかると考えています。一日8時間週5日とするとひと月平均172時間働いて、一枚25時間かかるとするとひと月で6枚から7枚です。

一枚の仕立て代を25,000円もらったとしても、月15万~20万円です。

これが高いか安いかは意見が分かれると思いますが、全然安いと思います。なぜなら、正社員として雇用されているならいざ知らず、個人で請け負っている場合がほとんどですから、雇用保険も社会保険もなく、電気水道光熱費を払って、保障もないわけですから。

もし和裁士さんに30万~40万円を手にしていただくとなると、仕立て代が5万円になるわけです。

反物に対しての愛のない人で仕立ての腕がいい人はいないと思っています。
考える力のある人、創意工夫ができる、クリエイティブな力を持っている人、課題や物事に対して掘り下げがきちんとできる人が腕がよくなっていきます。

そんな素晴らしい人たちが世の中にいるのに、その人たちに仕立てをせずに、安い仕立て代をもらうより他所で働いた方が儲かると言われないような金額にしていく必要があると思います。

たかはしも業者さんとの間に入ってお仕立ての仲介をしますが、その際、お店の手数料として2割ぐらいをいただいています。この金額を多いか少ないか妥当と思うかはそれぞれだと思います。

お店でも人件費がかかります。検品したり、伝票を書いたり、きものをたとう紙に入れたり、いろんなことをします。お仕立てに手数料2割いただいても実は赤字ですが、サービスの一環として考えています。

この組み立てをよく考えた上で、お仕立てを和裁士さんに直接お願いしたい場合は、ネット上で発信している和裁士さんと直接繋がるといいと思います。

ただし、万が一、裁ちミスがあったり、汚れ・シミがついてしまった、思っているように仕立てあがらなかった場合などには、間に立つ人間が居ないため、和裁士さんと話し合うなど、ご自身で対応する必要がでてきます。

お店として間に立つ場合は、仕立て屋さんも守る、お客様も守るという立ち位置をきちんと守った上で手数料をいただく分には、2割が3割でも4割でも5割でもいいと思っています。

ここまでの話を踏まえても、現状の仕立て代ではあまりにも安いのではないでしょうか。

たかはしでは、仕立て代をランク分けしていて、ハイテクミシンを含めて一枚の値段が2万円から5万円までの4段階に分かれています。仕立ての腕によって金額が異なる方式を取っています。

きもののお仕立てに限ったことではありませんが、すべて人任せにすると、満足いきません。

たとえば、とくに希望も伝えず仕立てをお任せしますとお店にお願いした結果、こんなこと頼んでいないとトラブルになるケースを出先のお店でも聞くことがあります。実際、対応するとなると困ったお客様だと思います。

やはり任せる側には任せた責任があって、大人同士のお付き合いや取引の中には、その責任を受け止める覚悟が必要です。お金を払う側が偉いとか何を言ってもいいわけではなく、相互で信頼しあう関係性を築いていくのに尽きると思います。

ぜひ、自己責任で楽しんでください。

女将による仕立てや和裁士さんへの愛ある動画はこちらをご覧ください。

【聞きたいけど聞けない、きもののお仕立て代を紐解く!お仕立て代、高い?安い?】たかはしきもの工房「ズボラ女将の和装の常識を斬る!」


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