平成23年9月
震災から早半年が経ちました、早いものです。
被災した着物の洗いの持ち込みもずいぶん落ち着きを見せ、最近は仕上がってきた着物の伝票整理に暇(いとま)がないという状況ですが、それでも時折『やっと整理をする気になって片付けてるの…』とか『今までタンスが開かなくてね、結局壊したんだけどね…』などと言ってお電話が来ます。
…こんなに経つまで放っておいたら、着物ってどうなっちゃうんだろう…
そう思われた方も多いのではないでしょうか。確かに、正直救える着物はかなり少ないです。
取り出して乾かした着物や帯は大丈夫なのですが、濡れた状態で放置されていたものは変色も含め、相当可哀想なことになっています。
先日、想像を絶する!着物たちが持ち込まれました。
それは臭いやカビもひどかったのですが、開いてみると、なんと胴裏がビリビリに裂けていたり、まるで薬品で溶かしたような有様だったり…、、どんなベテランの悉皆屋さんでもお目にかかったことのないような有様のものでした。
と、ここからが本題です。
それでもお客様はそれを解いて表だけでも洗い張りしてくれというのです。
もちろんカビもあり変色もありですから着物として蘇らせることはほぼ無理でしょう。
それでも何かしらに使いたいというのです。
私は今更ながら着物というものの凄さを見せつけられた気がします。魂が入っているのですね、きっと。
あ、そうそう、こんなお客様もいました。
お見立てをしたらどれもカビだらけで救える着物はなかったのですが、唯一留袖に合わせた白襦袢だけは、大丈夫だったのです。
黄ばんではいるものの、これは丸ごと漂白仕上げをすれば真っ白になります。
ああ、よかったですね~。この襦袢は生地もいいし助かりますよ♪
ところが、お客様は『襦袢だけあっても仕方ないもの…。もう着物を買うなんて出来ないし、気持ちが萎えてどうしようもないから、あなたにあげるから持っていって』というのです。
とても辛いことですが、今ここでどうすることも出来ないので、取り敢えず頂いて来たのです。
でも心の傷は必ず時が解決してくれるもの…。
その時まで、綺麗にしてお預かりしておくことにしました。
だってすごいんですよ!
最近チラホラと『ああ、綺麗なものが見たいし着たいっちゃ。着物が無性に買いたい!』なんて言われるようになってきたのです。
お店もまだまだ片付かないのですが、それでも帯の一本も飾っておくとパッと売れちゃったり、成人式の問い合わせもにわかに増えてきたり…
やっぱり着物ってすごい!
日本人の気持ちを揺り動かすっていうことを今度の震災で見せつけられ続けています。笑