自分に合う呉服屋さんを気軽に探せる方法
ここ数年できものを楽しむようになられた方は、最初はお母さまのきものや、おばあさまのきもの、リサイクルきものなど、身近にあるきものや既に仕立てられているきものから始めた方がほとんどなのではないでしょうか。恐らく、呉服屋さんできものをまず一枚買ってから始めたという方は、少ないと思います。
呉服屋さんで開催されている着付け教室などをきっかけに、そのお店の馴染みになると、買い物がしやすくなったり、ちょっとした疑問も聞きやすいということがあるでしょう。
しかし、呉服屋さんとまったく接点の無い場合、呉服屋さんに気軽に入ることができないという声をよく聞くことがあります。
気軽に呉服屋さんに入ることができない原因としては、
呉服屋さんでこんな風に言われて悲しかった
希望を伝えたのに希望の通りに仕立ててもらえなかった
すごく高額な商品を買わされたらという不安がある
買うつもりが無いのに行ってはいけないのではないか
など、ネット上などでネガティブな情報を目にすることが考えられます。
日常できものをもっと楽しむために、今回は、呉服屋さんとの上手な付き合い方をお伝えします。
日常できものを楽しむための呉服屋さんとの付き合い方
理想は、お住まいの近くで直接相談に乗ってくれる呉服屋さんがあると、すごく良いです。御用達のお店になるような地元の呉服屋さんと一軒は繋がっておくことをおすすめします。
ただ、その一軒のお店だけに絞って行くということではなく、核となるお店を見つけ、目的に応じて複数のお店を使い分けると良いです。
たとえば、地元の呉服屋さんを核とするお店として、大手チェーン店の呉服屋さん、リサイクルきもの屋さんなど、目的に合わせて通うというような形です。
核となるお店に、自分の寸法や持っているきものや好みなど、いろんなことをわかってもらっていることが、きものライフを楽しむにあたって大きなメリットになります。
たとえば・・・
素敵な帯を見つけた時、手持ちのきものに合うかどうかがわかる
着合わせを考えた時、何か弊害がある場合、それは止めた方が良いなどのアドバイスがもらえる
小物を選ぶ時、手持ちの小物と似ている場合に、新たに加える色味としておすすめの小物を提案してもらえる
このように、何か商品を選ぶ際にも、着ることを前提とした提案がもらえて、着方や着合わせについても相談に乗ってもらえると、きものの楽しみ方の幅が広がりますよね。
また、核とするお店に、地元の呉服屋さんをおすすめしたい理由がふたつあります。
ひとつめは、チェーン店の呉服屋さんの場合、転勤によって人が移動してしまう可能性があるからです。地元の呉服屋さんの場合は、その可能性が低いです。
ふたつめは、チェーン店の呉服屋さんの場合、そのお店の方の想いだけで経営しているわけではないため、担当する人が替わることで齟齬が発生する可能性もあります。地元の呉服屋さんの場合、経営者が直接接客する場合もあり、相対的にその可能性が低くなります。
そのため、長い目で見て考えると、地元の呉服屋さんを核になるお店にしておくと良いです。
いずれにしても、付き合っていくお店の中で、確実にこの人だったら信頼できると思える人が見つかる事が一番です。
長く付き合える呉服屋さんを見つけるには
長く付き合える呉服屋さんを見つけるには、日常できものを着ることを前提にしているかどうかを、取り扱いしている商品の種類やスタッフの対応を見ていくと良いです。
まず、商品の取り扱いについて。きものや帯だけではなく、肌着や帯揚げ、帯締めなど、きものを着る時に必要な小物が充実しているかどうかが重要なポイントです。
昔は、きものを買うだけで着ないお客さまは沢山いらっしゃいましたが、今はきものを買う方や呉服屋さんに入ってみたい方にとっては、きものを着ることにプラスになるお店を探していると思います。
きものを着るためにいい商品の提案があるというのも選ぶ視点のひとつではありますが、きものを着ることに即して経営しているお店が、きものを着ることにプラスになるお店です。
たとえば、きものと帯は沢山取り扱いがあるのに、帯揚げや帯締めがほとんど置いていないお店の場合、きもののコーディネートには興味が無い可能性が高いです。
逆に、小物の提案があるお店や寸法の相談に乗ってくれるようなお店は、着ることにとても興味があるお店の可能性が高いわけです。
次に、接客してくれるスタッフについて。着方や着合わせの相談はもちろん、お客さまからの質問に対して、親身になって対応してくれるかなどが、ポイントになってくると思います。
たとえば、帯締めや帯揚げなどの小物を買おうとしている時、その商品についての話だけではなく、疑問に思っていることや、次に着ていく場所にどんなものを着たら良いのかなど、着る時を想定して会話がされているかどうかで、自分との相性も確かめられると思います。
お客さまの話をあまり聞かずに、一方的に決めつけるのではなく、一緒に相談しながら選んだり決めたりできるかどうかが、きものを着始めた方には必要なお店だと考えています。
こうじゃなきゃダメですというような形ではなく、多方面からの視点で提案がもらえるお店なら長くお付き合いできると思いますし、お客さまが疲れたり、がっかりすることも少ないでしょう。
実際に、自分に合う呉服屋さんを見つけるには、そのお店に来店して、確かめるほか無いわけですが、呉服屋さんに行くのに一番ハードルが低いのは、お友達の御用達のお店に一緒に連れて行ってもらうケースです。お店と自分の間に、仲介してくれる人がいるから非常に安心ですよね。
ただ、注意したいのは、お友達にとってベストなお店であっても、自分にとってベストなお店かどうかはわかりません。そのため、最初は一歩引いた気持ちで、自分の感覚でお店を見ていくと良いと思います。
一人でもできる気軽に呉服屋さんに入る方法
お友達の御用達のお店に行く時も、ひとりで呉服屋さんに行く時も、試してもらいたいことがあります。これは、呉服屋さんに入る口実にもなるので、気軽に呉服屋さんに入りやすくなる方法です。
それは、「きものについて、ちょっと教えてくれませんか?」と呉服屋さんに入ってみることです。
たとえば、着合わせの話や、寸法について、リサイクルきものを着ていて困っている点など、買う目的ではないけれど聞いてもいいですかという体で、尋ねてみることです。
これは呉服屋さんにとっても、話のきっかけになり、お客さまとの接点にもなります。
きものを楽しむために、良いお付き合いが長くできるお店を探すのであれば、ぜひいろんなお店に沢山入ってみることをおすすめします。
いろんな呉服屋さんに行って、自分に合う呉服屋さんかどうかを探していく中で、このお店なら信頼できる呉服屋さんが見つかったなら、一度きものを仕立ててみると、きものの楽しみ方が広がります。
きものを仕立てるために、寸法をメジャーで測っただけで決めて仕立てた場合、寸法が狂う可能性もあります。そのため、サンプルのきものを試着することで、より体に合った寸法に調整してくれるお店もあります。
ただ、そのようにして仕立てた場合であっても、一回の仕立てで一番着やすいベストなきものには、なかなかたどり着かないです。
なぜなら、選んだ反物の生地の落ち感にもよりますし、サンプルを試着したとしても、着る時の腰ひもの位置がズレると身丈も変わります。裄についても、礼装用と日常用では寸法が違います。仕立て方の袷と単衣でも違ってきます。これを言い出すとキリが無いので、ここで留めておきます。
まったく同じ寸法できものを仕立てたとしても、すごく自分に合ってて良い感じという時と、ちょっとその感じとは違うという時もあるのはそのためです。
きものを纏った感覚を体感し、いろんなことを考え出すとキリが無いですが、だからこそ自分なりのこだわりが生まれることも、きものの楽しみのひとつではないでしょうか。
人間だものトラブルもあるけれど、幸せもある
いろんな呉服店さんと付き合っていく中で、ちょっとしたトラブルもまったく起こらないということは、ほとんど無いと思います。誰もが人間なので、失礼なこともあるかもしれませんし、間違いも起こることもあるでしょう。
そのため、自分に合う呉服店さんを探していく別の視点として、何かトラブルがあった時の解決方法で、判断できることが多いと思います。
以前、きものをどこかの呉服屋さんで買った時の経験をSNS投稿されていた内容を事例にお伝えします。
そのお客さまは、希望の寸法を持っていき、その通りに仕立てて欲しいと頼んだそうです。しかし、仕上がってきたきものはその寸法の通りにはなっていなかったので、直してほしいと依頼したところ、そのお店では「あなたの身長からこちらが判断して仕立てた」と言われたそうです。
この場合、お店側でお客さまが希望された寸法に問題があると思ったのであれば、仕立てる前にお客さまに伝えた方が、このトラブルを回避することができたでしょう。
会話をすることで、たとえば、この身丈だと短いと思いますと伝えたら、私は余分は一切要らないのでぴったりにしたいのでこの寸法で仕立てて欲しいという会話になったのかもしれません。お客さまが希望した寸法の理由がわかれば、希望した寸法で仕立てることができたのでしょう。
以前のように、きものをあまり着なかった時代には、きものを人に着せてもらうことが多かったので、身丈を長めに仕立てるのが一般的でした。そのため、仕立てる寸法を任せますということになると、身丈が長めに仕立てられる可能性が高いです。
このようにトラブルがあった時、すぐに謝ってくれるお店だと、気持ちよく付き合っていけますよね。
ただ、これは逆にお客さまの場合も同じです。お店に任せると言ったのであれば、任せた責任がお客さまにはあります。その結果、もし自分の思い通りにならなかった時、一方的にお店が悪いと決めつけて文句を言ってしまうと、お店との良い関係性を築いていくのは難しくなります。
お店もお客さまも、腹がくくれているかどうかということが、良い関係を築けるかどうかというところの分かれ道になります。
お店と良い関係性を築いていくなら、何か気づいたことがあれば素直にそれを伝える環境を築いていくことに意識を向けてもらえると、お互いにとって良い関係ができていくと思います。
どうぞ恐れずに、教えてもらいたいことを持って、呉服屋さんにどんどん入ってください。もしお店の人に面倒くさがられたら二度と行かなければ良いだけですし、もし間違えて謝ってもくれないお店はもう行かなければ良いだけですから。
これまで呉服屋さんに行ったことがある方にとっては、今までがっかりした経験もあるでしょうけれど、逆にすっごく幸せな経験をされたこともあると思います。
きものライフは、自分一人での楽しみもありますが、一人だけの楽しみじゃないと考えています。
きものを通して人の輪を広げていくことで生まれる楽しみは、人との関わりで楽しみが増幅されるような感じを経験されたことはないでしょうか。その人の輪の中には、お友達はもちろん、お店もあって欲しいと願っています。
今は、呉服屋さんとの関わりは無く、ネットで全部揃える方も多いかもしれませんが、直接的な人間と人間との関わりの中で、より深まっていく思いが生まれるはずです。
そういった経験も共有しながら、どんどんみんなでお互いに良い形を目指しながら手を携えて、きものがもっと楽しいものになったらいいなと思っています。
ぜひ核となるお店を見つけて、きものライフがより楽しくなるようなお店との関係性を築いていっていただければと思います。
ぜひ呉服屋さんに行ってもらいたいと本気で思っている女将の動画はこちらをご覧ください。
【自分に合う呉服屋さんを探すコツ&気軽に入る技を伝授!こわくない!ドンドン入ろう呉服屋さん♪】たかはしきもの工房「ズボラ女将の和装の常識を斬る!」
更新情報はInstagramで発信していく予定です。
Instagramを登録されている方は、是非「たかはしきもの工房…
「丸洗い」と「洗い張り」の違いとは?
きもののメンテナンス、「染み抜き」や「丸洗い」、「洗い張り」など、どのようにされていますか?
たとえば、、、
一度着たら汗や汚れが気になるから「丸洗い」している
明らかなシミが付いたところだけ「染み抜き」し、あとは「丸洗い」している
「丸洗い」は安価でお手軽だから「丸洗い」だけしている
「洗い張り」は仕立て代がかかるから高いから「丸洗い」で済ませる
など、「丸洗い」する機会の方が多いかもしれません。
きもののメンテナンスの中で、「丸洗い」と「洗い張り」の効果が同じと思われている方も多いと思いますので、今回は、「丸洗い」と「洗い張り」の違いをお届けしていきます。
「丸洗い」とは?
まず、「丸洗い」についてお伝えしたいと思います。
「丸洗い」はドライクリーニング溶剤できものを洗う方法です。溶剤は石油からできているため、油汚れに強いと言われています。きものを丸ごと洗っても生地が縮まないこともあり、気軽に利用される方もいらっしゃるでしょう。
基本的には、きものの「丸洗い」は洋服をドライクリーニングするのと変わりませんので、
きものを丸ごと洗える
衿汚れや裾口の汚れを個別に湯洗いをしてくれる丁寧なところもある
アイロンでプレスすることで糸目が整うのでシワも取れる
よほど汚れがひどくない限りは衿汚れや染み抜きでの別料金なし
など、お手軽で良いと思います。
ただ、一度着ただけで目立った汚れも無いのに「丸洗い」するのはお勧めしません。
その理由は、溶剤の成分が不明なため、生地の染めにまったく影響がないかはわからないからです。
昔に比べて現代では、様々な薬品が使われています。反物自体に使われていることもありますし、保存に使用する紙にもノリが、収納する箪笥にも接着剤や防カビ剤が使われています。そのため、いつ何がどう化学変化を起こすのかは判断できないので、できるだけ溶剤を使う頻度を少なくする方が、生地への影響リスクを小さくできますよね。
「洗う=劣化」です。
生地は、洗えば洗うほど毛羽立ちや擦れに繋がります。そのため、生地を長持ちさせるためにも、「丸洗い」をする時を自分で見極めることが大事です。
ちなみに、「丸洗い」に出すタイミングの見極めポイントは、次の通りです。
衿汚れを自分で落とせているかどうか
袖口が黒ずんできていないか
裾の裏側の八掛が黒ずんできていないか
お尻回りや膝裏のシワが気にならないか
膝前の生地がヨレていないか
さらなる疑問点として、次のシーズンまで着ないきものを収納する時、どのようにメンテナンスしているのか気になった方もいらっしゃるかもしれません。
たとえば女将の場合、衿汚れを毎回自分で落とし、問題が無いと判断したきものはそのまま収納しています。同じきものを毎シーズン着ていると、意外と黄ばみや汗汚れも簡単には変色したりはせず、着ること自体がメンテナンスにもなっています。
何年も箪笥にしまったままにしておくよりは、年に1回は着る、もしくは2年~3年に1回でも着てあげるようにすると、きものを長持ちさせることにも繋がります。
とはいえ、1シーズン着た後、次のシーズンまで収納しておくのが心配な場合には、「丸洗い」するのもひとつの選択でしょう。
日常できものを着る頻度や状態などに合わせて、選択していくのをおすすめします。
「洗い張り」できものを育てるとは?
生地が喜んでいるように感じる、紬は育てて着るもの、と言われる「洗い張り」には、どんな効果があるのでしょうか。
生地が綺麗に見える
天然繊維は細かい繊維をより合わせた糸を何本も重ねて1本の糸にしています。とくに真綿の場合は、繭玉を広げて糸を紡いでいくので、細い繊維がより合って作られています。
そのため、毛羽立ちがありますし、着ているうちに細かい繊維が出てくることがあるのです。
「洗い張り」をすると、生地から細かい繊維が抜け落ち、光の屈折が変わることで綺麗に見えるようになります。
着心地が良くなる
紬系の反物は先練といってセリシンを落とし、糊で繊維を固めた状態にして織っていきます。糊を使用せず柔らかい状態だと織ることができず、織りムラが出たり、糸が切れやすくなったりするためです。織った後、湯通しをすることで糊を落としますが、生地の奥に入った糊はそのまま残っています。
「洗い張り」をすることで奥に残った糊が落ちていき、生地がより柔らかくなり着心地がとても良くなるのです。
吸着した見えないホコリもすっきり落とす
絹は繊維が繊細なので、目に見えないような小さな粉塵やホコリも吸着してしまいます。そのような生地の中に入り込んだ汚れを、水の力で洗い落すことができるのが「洗い張り」です。
「丸洗い」の溶剤でも効果はありますが、ドライクリーニングでは取れにくいものもあるため、「洗い張り」することでよりすっきりと落とすことができます。
生地の収縮や歪みをリセットする
きものは時間が経つことで、少なからず生地の収縮や歪みが生まれます。
「洗い張り」は反物の状態に戻してから水を通して洗うため、生地の収縮や歪みをリセットすることができます。
創意工夫で長く着られる
反物の状態に戻して仕立て直しをするので、生地を転地することで取れなくなったシミを見えないところに隠したり、体型の変化に合わせて寸法を直すこともできます。
このように「洗い張り」をすることで、きものがより体に沿うようになって、「丸洗い」では得られない着心地の良さが生まれていくようです。
「洗い張り」は、きものを長持ちさせ着心地良くするだけではありません。きものを着る頻度が高いと、4~5年で裾がすり切れてしまうため、洗い張りの際に八掛を替えることも、楽しみのひとつです。
濃い色のものに替えたり、染め替えして違う色にしたりと、おしゃれの楽しみがプラスされますね。
たとえば、八掛が赤くて嫌だなって思う古いきものも、「洗い張り」して八掛を替えることで、また長く着られるきものになります。
良い機のきものは「洗い張り」3回目からが着どき。「洗い張り」で育てた生地の肌ざわりの良さは「丸洗い」とは比べようもありません。お金をかけた以上の効果をぜひ思いきって体感いただければと思います。
女将による「丸洗い」と「洗い張り」の違いはこちらの動画をご覧くださいませ。
【きもののお手入れ!「丸洗い」と「洗い張り」の違いとは?】たかはしきもの工房「ズボラ女将の和装の常識を斬る!」
更新情報はInstagramで発信していく予定です。
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