平成27年11月

きものよきもの

着物には様々な技法があります。
染も織りも、素晴らしい手の込んだものは遠目からでも画像からでも、違いが判る場合が多いですね。
時間をかけた分、想いも深くなるのは納得ですし、また、その手間が価格に反映されるのも当然でしょう。

でも昨今は絹着物でもインクジェットプリントで印刷する方法で作られることが多くなってきました。
振袖などはいい例です。

なぜかといえば安価だということが一番の理由だと思いますが、もう一つ大きな理由があるのです。

それは染めの段階で起きるムラや難がプリントにはないということです。

インクジェットの場合、正確にインクを吹き付け柄を付けます。
ですから染料がにじんだとか飛んでしまったという難物が出ないのです。

さらにコストもかかりませんのでリーズナブルで、色も無限ですから様々な面白い商品も新たに生まれていて、手軽にファッションとしての着物を楽しめるようになった功績は大きいと思います。
ですが、さきにも書いたように手で行う仕事のような味わいは当然出ません。
そこは安価だということと引き換えになります。

職人仕事は手の加減で、味わい深く、それは先にも書いたように遠目にもわかるほどのオーラを放っているものです。
そしてそれを身にまとった時の喜びとみなぎる自信は何物にも代えがたいものです。

でも手仕事には間違いが起きます。
どんなに細心の注意を払っていてもそれはおこります。
もちろん難物と正規品に少しは価格などに違いがあって、B品と呼ばれたりして処分されるというのが通常です。
ですが、ある程度仕方のないことというとらえ方が無ければ、怖くて誰も職人にはなりたがらないのではないでしょうか。
昔なら、そのへんのところをうまくお客様に納得してもらうゆとりがあったように思いますが、最近ではほんの小さなミスにも当然の権限を振りかざすように責め価格を値切られてしまうために、手仕事から職人が離れてきているのです。

問屋も小売り屋も厳しい目は持ちつつも、職人を守る方向に想いを馳せなければ、着物はすべてインクジェットで作るもの、になるかもしれません。

もちろん安価なプリント物も、私はあってしかるべきだと思っています。
でも職人仕事とプリント物をきちんとわかるように表示をし、さらには職人を守る販売をしなければ、もうここ十年くらいでかなりのモノづくりがなくなっていくことになるでしょう。
それは、実は和裁にも言えることです。

着物業界、過渡期に来ています。