平成28年11月

きものよきもの

着物の月間雑誌に「a/r/e/c/o/l/e」アレコレという小冊子があります。
この冊子は本屋にはおいていないもので個々に購読申込をするか、サービスにしているお店からいただくしか手に入れる方法はないのですが、かの「七緒」が誕生するずっと前からあった冊子なのです。

私も業界の中では珍しく「着物を着ていただくために」の発想でモノづくりをしていますが、アレコレもまさに着物を着ていただくための冊子なのです。
毎回何らかのテーマがあって、コーディネイトはもちろんのこと、それを時には検証したり解析したりと編集長のしつこさがよくわかる内容です。笑

そしてきくちいまさんのエッセイ、「きものびと」や「着物男子」の紹介、秀逸なのは笹島寿美先生の連載です。
小さなことと思えることも真摯に取り組んで研究なさっている姿勢が、文章の間からこぼれ落ちてくるようです。
実直で、それでいて柔軟な細胞を感じさせるこの大先生は、何故このような小さな冊子(失礼!)に連載してくださっているのかと時々聞いてみたくなります。

でも本当は私、知っているのです。
なぜ笹島先生がこの冊子に書いているのかを。

きっとそれは、笹島先生が職人だからです。
アレコレの編集長である細野さんの熱心さに打たれたのはもちろんですが、それと同じくらいにその読者層にも魅力を感じたのだと思います。
いつも言ってますが、着る着物の中心は東京です。
バブルがはじけて以来、しばらく着物は買うだけのものになり果てていたものを東京が救ってくれたのです。
今や、現在の東京を無視して着物は語れないほどです。

笹島先生もひたすら心地よく着物をまとうことばかり考えてきたのでしょう。
その思いが成就したかのように日常着物を楽しむ着物愛好者たちに、きちっとご自身の理論をプレゼントしたかったのかもしれません。

もっともっと着物を楽しんでもらうために。
そのためなら、そこに損得の計算はたたないのだと思います。
 
全国組織の「商業界」という商人道を学ぶ組織があります。
その教えの一つ目は『損得より善悪を考えろ』です。
例えば食品加工なら、家族に食べさせられないものは売るな、ということですし、農家なら、農薬を使わない家族用の畑と農薬だらけのきれいな野菜を分けて作るな、とういうことです。
肌着屋としては自分たちが着て心地のいいものを追求するということです。
そのために生地や縫製を国産にしています。
製品価格は高くなるのに利益は薄いということになっても、です。

清く正しく美しく… がんばります。