平成29年2月

きものよきもの

朝、東京からの移動で駅に向かうため、タクシーを拾ったところ、走り出すなり運転手さんが「失礼ですけど、お仕事ですか?」と声をかけてきました。
着物を着てると結構声をかけられます。
で、
「はい、そうですが、私ほとんど毎日着物なもんで…」
「ええ~っ、そうなんですか?いや実はね私、二十年位前まで京都で悉皆の仕事をしていたんですよ。時には作家として販売会にも営業に行ってました。」
とおっしゃるではないですか。

二十年ほど前といったらまさしくバブルがはじけて間もなくというあたりで、また世の中の「着物をある程度持つことは女のたしなみ」的な価値観がガラガラと崩れ去ったあたり。

今度は私が
「ええ~っ、なんともったいない。今は腕のいい悉皆屋さんが減ってお店もお客様も困っていますよ。今ならきっと必要とされるでしょうに…」

運転手さん
「長年業界で頑張っていたんですが、結局食えなくなって転職しました。当時の仲間の中には何人も自殺した人がいます。
でも、そんなに着物を着てくれる人が増えているんですね、うれしいなぁ。」


「なんともつらいお話ですね…。
私ね、実は呉服屋ではなくて京染店、つまり消費者側の悉皆屋です。で、そのことが端を発し今は地元のお店の他に肌着のメーカーとしてお仕事させてもらっているんですよ。だって着物って、一番の大敵は体液、特に汗ですよね。それを局部的に防水しているんです。」

運転手さん
「そりゃすごいなぁ。今日は朝からいい話を聞いたなぁ」

そう言って満面の笑顔を向けてくれました。

その時の運転手さんの笑顔が忘れられません。
もうお目にかかることはないかもしれませんが、これはきっと神様が出逢わせて下さったんだと感じました。
心がきゅっと締められるような切なさと共に、しゅっと背中が伸びるような覚悟を頂きました。

今日も明日もがんばります!