平成29年8月

きものよきもの

人様に自分の考えを伝えるということはとても難しいことです。

このことは日常生活の中でも、いつも感じていることですが、肌着メーカーとしてモノづくりを始めてから約十五年、なお一層『伝える難しさ』の壁と戦う日々です。

様々な創意工夫の中で、明確にやってよかったと思えることにネーミングにプロを入れるということです。
販売の現場で「麻子ちゃんが好きなのよ~」「私は断然夏子派よ!」「空芯才ちょうだい。」「何?花ちゃんてどんなものですか?」など、商品名に「ちゃん」付けしていただいたり、商品名がまるで愛称のように飛び交ってるのを聞いていると、なんだかほわ~んと幸せな気持ちになります。

メーカーとしてモノづくりを始めて五年も過ぎた頃からでしょうか、自分たちには、きちんと意味を伝えて覚えてもらえる商品名は考えられないのでは、という自覚を持ち始めました。
結果、今は全てコピーライターさんに頼んで名前を決めています。
一つの商品に何点か考えてもらって最終的には社内で揉んで決めるという方法をとっています。
ボツになった名前も含めて、本当に一つ一つ思い入れがあります。

中でも一番印象的なのは帯枕の「空芯才」です。

その時も四つの候補がありました。
商品名を決めるべく社内で読み上げた時に、この「空芯才」という名前は全員一致で却下されたのです。
今となっては覚えていませんがその中で一番無難な名前を選びコピーライターさんに連絡したところ、

「…そうですか~。空芯才、一番自信あったんですけどね、ダメですか?」
とおっしゃるのです。

こちらとしては、
「ええ~っ、なんで?」でした。

なぜなら、その時点で気仙沼では空芯菜という野菜は販売されておらず、社内でも見知った人が一人もいなかったからです。

そのことを伝えると
「ええ~っ!それこそびっくりです。ものすごくポピュラーな野菜なんですよ。中華料理店では空芯菜炒めという料理が必ずありますし、スーパーでも普通に売っている野菜なんです。通気性のある不思議な帯枕と、茎に穴が開いている不思議野菜をかけたんですけどね。野菜の菜を才能の才に変えて、そのままの音を使えば、とっても馴染んでいる音ですし。イメージが合っていて面白いし…」

という説明を聞いているうちにとっても素敵に思えてきて、
「分かりました!ではそれでいきましょう!」
と勝手に決めてしまったのです。

始めは社長の勝手にみんな、ちょっとむっとしていたように感じられましたが、今となってはいい思い出です。
その空芯菜、今年の春くらいからスーパーでも見かけるようになりました。
同じように空芯菜を知らない田舎、いまでもあるんではないでしょうかね。笑