平成29年9月

きものよきもの

着物は年齢の守備範囲が広いです。
二十代で作った着物が六十代でもそのまま着られることもあります。
色が少々渋くても、または少々華やかでも着物なら着れちゃうってこと、よくあります。
お洋服でもないわけではありませんが、まずは体型を維持しているという絶対条件をクリアしなくてはなりませんし、明確に流行があって色やパターンが変わるので、ちょっと難しい事が多いです。

着物の場合、特に袷は若い頃のものだと、八掛に赤みを使うことが多いので、それが邪魔して年齢を意識してしまうパターンはよくありますが、八掛は染め直せるんですよ。
そうです、表地と胴裏は洗い張りし、八掛だけ染め直せば、また真新しい着物と出会えるのです。
たとえ体型が大きく変わっても仕立て直しさえすれば、着られるようにすることはお手のものです。

着物は歳月を重ねて培われた技術で作り上げられていますから、大きな流行がないのでしょう。
それがまた着物の大きな魅力ですね。

ところで、京染悉皆のお店がどんどん減った今では「着物の洗い」=「丸洗い」とお考えの方が多いですよね。
実は丸洗いと洗い張りでは大きな違いがあるのです。
丸洗いはドライクリーニング溶剤での洗いですが、洗い張りは水で洗います。
だから、解いて反物の形にしなくてはいけないのですが、その効果は絶大です。

出来れば10~30年に一度は洗い張りをしてあげると、生地は余計な繊維や染料や埃などの汚れを吐き出し、ツヤツヤピンピンに蘇ります。
もうこれが新品のものを買うよりいい塩梅になるのです!

私は京染悉皆が本業で、呉服屋はその次、肌着屋はまた更にその次です。
ですから、たくさんの洗い張りや染め替えを手掛けてきましたが、確信を持っているのは「着物は洗い張りが大好き」ということです。

で、特にそれが顕著なのが紬です。
紺色の絣や黒地の大島など、一見若い人には地味なように映るものも、結構いけてしまうものですが、お母さんやおばあちゃんの紬をゲットしてきた方にいつも言うのは、
「今のこの着物が数段素敵で着やすい着物に変わりますよ!」
ということです。

つまり、「時を経てお古になった方が良くなるものの代表が着物」だと私は感じています。

生地の風合いもですが、誰かの手を経て自分のものになるということは、その誰かの思い出も受け取るということになります。
たとえそれが親族や知人からのものでなくリサイクルショップで手にした一枚でも、です。
これはどんな人が愛用していた着物なのかなぁと思った瞬間に、ぐっと着物が身近になりますよ。