平成30年9月

きものよきもの

今年の夏はずいぶんと暑かったですね。
こんなに気温が高いととても着物という気にはなれないことでしょう。
最も何枚も重ねて着ることを思えば当然です。
私でさえ事務仕事の日はラフな服で仕事することもしばしばです。

そんな8月でも、夏休みで子供たちが帰省していることから成人の予約が、わりにあるものです。
先日も男の子が成人式に紋付きを着たいということでお父さんお母さんと3人でご来店くださいました。
細身で小柄な男の子だったのでサイズがあるか心配でしたが、なんとか合わせることができホッとし雑談してると、なんと!おじいさんの代からの紋付き袴があるというではありませんか。
これにはビックリしました。立派な紋付きが家にあるのになぜレンタルを借りるの?と聞くと

だっておじいさんが着てお父さんが着たお下がりなんて嫌だよ

というのです。
これにはますますびっくりでした!

家に代々伝わるものはいわゆる家宝です。
家の家紋を入れ、大事に受け継がれてきたものを「お下がり」と感じる感覚に私は初めて触れました。
ポリのレンタル品より家に伝わる紋付きの方がずっと価値があると話してみても「はぁ、そうなんですか…」と不思議そうな顔でした。
彼にしたら、家の着物こそ価値がある、大切だというこちらの感覚こそ不思議でたまらなかったと思います。

ファストファッション、ファストフードなど安価で手軽で使い捨てがいいというような風潮が行き届いた結果なのでしょうか。
家でも学校でもそういう感覚は教育されなかったということですよね、なんだかとても寂しい感覚になりました。

着物の醍醐味は「母から子へ 子から孫へ」だと私は常々話しています。
亡くなった私の父の紋付きを仕立て直して愚息に着せた時には父のものだということがうれしくて涙が出ました。
我が息子がその意味をわかっていたかは疑問ですが、亡き祖父のものだということに何かを感じてくれていたらうれしいです。

震災の時にも多くの人が代々の着物を助けてほしいと当店を訪れました。
着られるようにはならない着物でも、捨てられないから洗うだけ洗ってくれというお客様も何人もいました。
それは代々の重みだったと私は感じています。
衣類を受け継ぐ文化は世界でただ一つ、着物だけなのですから。