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支えられています

2011年11月28日

大漁旗

人気の着物雑誌『七緒』の編集長が気仙沼に来てくださいました。

それはそれは着物で商っている私にとって名誉なことですが、私はこのことを自慢したくてこのページを書こうと思ったわけではありません、ちょっと聞いてください。

忘れもしない3月11日の翌週は七緒さんの取材の予定で上京するはずでした。
5月21日に発売予定の『買いもの七緒』にも商品を掲載して下さることになっていました。

その矢先のあの震災でした。

訳わからずの数日後、私は取材の約束を思い出しました。翌日、ケータイの電波の届くところまで車で出て大事なところへ電話しようと、友人と共に車を出しました。電池式の充電器を持ち、ガソリンが手に入らない状況がいつまで続くかわらない中、電話のために貴重なガソリンを使う最初で最後の1回でした。

結局1時間ほど走ったところで電波が通じ、かけた電話の1本が七緒編集室でした。

電話口に出た編集者のNさんに 『気仙沼の高橋です!』と伝えると電話の向こうですぐに声が涙で曇ったのがわかりました。

『大丈夫だったんですね!ああ、よかった…。みんなで本当に心配していたんです…。』

ああ、なんと有難い、私も声を立てずに泣いていました。

『すみません、お約束の取材には伺えないのです。』
『当たり前です!そんなこと、心配しないでください!とにかくご無事で本当によかった…』
そんな短い会話だったと記憶しています。

 

やっとケータイが繋がり電気が通じて、自由に電話がかけられるようになったのは震災から約ひと月後、今度は通販に載せるはずの商品が全てダメになったことを伝える電話をかけようと思っていました、カタログの原稿締切が迫っていたからです。

その矢先、向こうから電話がかかりました。電話口にはやはり編集者のNさんの声。こちらの商品の状況を説明し終わるやいなや

『商品はまた作るんですよね』、と。

『はい、それはそうですが、やっと生地の手配をしたところで商品になるのは1ヶ月以上先です。とても発売まで間に合うとは思えません。今回は残念ですが諦めます。』

するとNさんが
『作るんだったら載せましょうよ!みんなとそう言っていたんです、是非載せたいねって。遅れてもいいようにそういうインフォメーションしますから大丈夫です。たかはしさんが困るのはいけませんが、そうでないなら是非掲載させてください!』

この時も泣きました。スタッフみんなで喜びました。全く想像していない言葉でしたから。

私たちはこのことに背中を押され、火事場のバカ力を発揮したように思います。
待っていてくれる人がいるって本当に素晴らしいことです。言葉にすると平たくて安っぽいですがおかげで頑張れたのですから……。

絶対無理!と思えた期日に間に合った事実が物語っています。生地屋も裁断さんも縫製さんもみんな頑張ってくださいました。

 
ところでその発売から約1ヶ月たった頃、今度は編集長から電話がありました。 なんと!当店の売上の利益を気仙沼に還元したいとおっしゃるのです! 日赤のようなところに寄付してもどこに行ったか見えないから、寄付する先は私に任せるから決めてくれと……。

この時も、もうわかってますね、はい、泣きました。

こんな有難いお申し出を頂けるなんて……。

私は電話を切ったあと、すぐにその団体を決めました。それは2年ほど前に立ち上げた『気仙沼のおもてなしを考える会 つばき会』です。

この任意の団体は女性だけで結成、市内のホテル旅館の女将さん、水産加工者、商工業者(私はココ)、主婦(と言ってもみんなスーパー主婦ですが)でいかに喜んでいただける街にするかを喧々諤々語り合い、何事思いついたことを総意で実行する団体です。

つばき会では1年ほど前から『出船おくり』という事業に重きをおいて活動しておりました。そのためにユニフォームも作りました。これは荒海に乗り出す船の公開安全と大漁を願ってお見送りをする、気仙沼では風物詩とも言える光景の再現をしようという取り組みです。 私たちはこの光景を、より華やかな景気付けになるようなものにしたいと頭をひねる中、あの大漁旗をミニにして陸から振ったら、どんなにきれいだろう、と思い立っていたのです。でもいかんせん資金がない。そこにこのお申し出です。

黒ずんだ気仙沼の港に、頂いた寄付金できれいな大漁旗を沢山はためかせよう!ということになりました。

あっという間にミニ大漁旗が完成、今七緒編集室にはそのミニ大漁旗が飾られているそうです。

長くなりましたがあと少しお付き合いください。

『かつお船の切り上げに旗を持って見送りするのですが見にいらっしゃいませんか?』との誘いに編集長は二つ返事で飛んできてくださいました。しかも編集室の大漁旗を持って!

これにはびっくり!!

港

これは今の港です。あちこち陥没したまま沈下したままですが、そこから船が出るのです。  

大漁旗

この中に編集長もいますよ~。あまりに馴染みすぎていてわかりにくいですけどね!

巷では『絆』やらが大流行りですが、とにかく人と人なのだと、つながることの大切さ有り難さは身にしみて、そこからあふれるほど思い知らされました。

ちなみに頂いた寄付金はミニ大漁旗の版代と、7人のメンバーの津波で流されてしまったユニフォーム代に当てさせていただき、残りはこれから考えます。

今回のご寄付には七緒の出版元プレジデント社様、並びに通販部分を仕切っている主婦の友ダイレクト社様のご理解あって実現したことです、本当にありがとうございました。心より御礼申し上げます。

最後に 編集長に被災地を案内していたとき、普段見られない鷺を見かけました。

鷺

地盤沈下で溜まった海水にもう魚が泳いでいるのですが、これを狙ってでしょうか。どす黒い背景にあまりに美しくて、眩しすぎましたね。