令和2年10月

きものよきもの

毎年十月には実店舗で一番大きい展示会があります。
普通のきものを扱っているお店のイメージは催事が多いお店、もしくは催事で売るお店だと思うのですが、弊店は呉服屋始まりのお店ではなく、京染悉皆というメンテナンスや誂えがメインの業態から始まった着物屋なので、催事が極端に少ないのです。

白生地だけでなく、反物を本格的に取り扱うようになったのは京染店として創業してからずっと後のことです。
私が自店のことを呉服屋とは言わずに着物屋という所以です。
つまり現在のお店は京染悉皆だけでなく反物や帯、小物などきものに関連する商品すべてを取り扱っているので単なる京染店でもなく、呉服店でもないってことで着物屋、と言いたいのです。
私の中では、呉服屋さんはきものを売るお店、京染店はきものを着てもらうためのお店という捉え方なのです。
この違い、わかりますかね~笑

ところで、創業祭には必ず老舗メーカーか、作家さんに来ていただきます。
どなたをお呼びするか、毎年頭を悩ますのですが、二年に一度必ず来ていただく弊店にとってなくてはならない女流人気作家さんがいます。
もう二十年以上のお付き合いなのですが、先生の作品を買ったお客様は必ずリピートするのです。
なぜって素敵だから、当たり前の答えですみません~笑

何がどう素敵か、というと、一反の友禅作品を仕上げるための工程って生地を選ぶところから始まると考えても、恐ろしいほどの工程を経るのです。
そのほとんどを、正確に言えば地色を引く(染める)ことと最後の蒸しのみ業者に出すそうですが、後のすべてを先生お一人で行うそうです。
「私がわがままだからなんだよね~」と仰います。
思い通りにならないことが嫌なんだと。
このこだわりがあるから、ものすごい素敵な色や図柄が生み出せるんでしょう。

その中でも印象的なお話を一つだけ、皆さんにもご披露します。
現在の友禅の使用する糊は科学糊がほとんどですが、先生はもち米を練るところから始まり、自分の糊を作るそうです。
なぜ、たかが線にそんなにこだわるのだろうと始めは思いました。
ですが、一目見ればその差は一目瞭然なのです。

先生の作品に漂う色と言い線と言い、そのやさしさは、実はこのもち米の糊にあったのでした。
科学糊がキリリと締まった線で真っ白なのに対し、もち米の線は生成り色をしていて線もフワフワと漂うような緩やかな印象の線なのです。
「宮崎友禅斎の時代の糊を使っている作家はもうほとんどいないんだけどね。」
と微笑む目元に誇りと自信をはっきりと感じました。
皆さんにも、織りでも染めでも何でもいいので先生の作品のようにこだわり抜いた一枚を、あるいは一本を是非手に入れてほしいものです。
本物を手に入れることの喜び、知ってほしいです。