,

きものや帯などの柄、一年中桜柄でも良いの?

きものや帯の柄で季節を楽しむとか、季節に合わない柄は着ちゃいけないとか、いつ誰が決めたのかわからない決まりごとを耳にしたことがあると思います。

そのため、きものや帯などを選ぶ時、「この柄って、今の季節に選んで大丈夫なの?」と思ったことがあるのではないでしょうか。

たとえば、直接注意されることがなかったとしても、誰かにそんなのダメでしょって思われるんじゃないかという不安もあると思います。

作家・きものデザイナーの宇野千代さんは「桜が好きだから」と、一年中桜柄のきものやバッグ、小物類を愛用されていたそうです。

堂々と私はこの柄が好きだから一年中着ると言えるのもとても素敵です。柄の好みはその人の自由ですので、何でもありでしょう。

しかし、そこまで貫いて楽しむことができる人はほとんどいらっしゃらないと思います。

宇野千代さんの考え方を基本にしながらも、女将が40年以上のきものを着てきた中で、柄選びで気をつけていることをお伝えしていきます。

季節の柄選びの決まりに囚われるのではなく、楽しみ方のひとつとして選んで、もっときものが楽しくなるための参考になれば幸いです。

織りで柄を作っている生地はどうする?

まずは、生地の柄から。

白生地には、地模様(織で柄を作っているもの)があります。地模様があるものとないものいろいろですが、紋意匠(縮緬の種類のひとつで、地紋を織り出したもの)というタイプのものだといろんな柄があります。

たとえば、茶道をされる方だとよく色無地のきものを作られると思うのですが、その生地を選ぶ時、色目としてピンクやえんじなどの華やかな暖色系の色で染める時には、地紋の柄を
気にすることは無いと思います。

普段着るきものとしてちょっと地味な寒色系の色を選ぶ時や、今後、法事でも使うようなきものを選ぶ時には、地模様に吉祥文様(おめでたい、縁起の良い柄)を選ばないということがあります。

たとえば、宝づくしは吉祥文様のひとつですが、どんな地味な色目でも法事の時に着ることはしません。

仏事にも使える生地かどうかの判断ポイントとして、

  • 吉祥文様
  • 青海波のように上向いている柄

など、お祝い事をイメージするような柄選びはしない方が良いです。

植物柄はどうする?

植物柄の場合、植物がデフォルメされたものか、具象的なものか、大きくふた通りに分けて考えます。

基本的に、デフォルメされている柄については、季節感は考えなくても良いです。一方、具象的な柄の場合には、季節感を意識した方が良いと思います。

例1:桜

木に桜が咲いている模様の場合、秋に着ようという気にはならないですよね。桜の季節がイメージされるような2月末ぐらいで、少し桜のつぼみが見えてくるような時期から満開の時期までは安心して着ていられるのではないでしょうか。

昔だったら、「最盛期に着るのは野暮よ」という人もいましたが、桜の季節はあっという間で、ちょっとの期間しか着られないのはもったいないですよね。

植物学的な観点で見ていくと、桜も種類によって最盛期は違っていて、たとえば、ソメイヨシノが散った後、八重桜が満開時を迎えたりしますよね。それを考えると、その時期の中であれば具象化した桜柄を十分に楽しむことができるのではないでしょうか。

※画像の柄はナデシコのデフォルメされた柄ですが

デフォルメされた桜柄については、たとえば、浴衣の柄に使われているように、花だけがデザイン化されたものは、桜の季節以外も楽しめる柄になっています。

この桜の帯ですが、花に加えてちょっと枝がある柄で、その背景に月のようなものが描かれています。実際に、2月から4月に機会がある時に締めています。

例2:シロツメクサ

このシロツメクサの帯は、シロツメクサの葉っぱが生き生きと土の中から出てきて、まだ花が咲かない時期から花が真っ盛りの時期まで締める、女将お気に入りの帯です。

例3:何の植物なのかわからない曖昧な植物

たとえば、このきものの柄はひとつの種類の花ですが、はっきりと何の花なのかわからない柄になっています。濡れ描き(濡らした生地に絵筆で模様を描く)の技法で描いてあるため、独特のぼかしが生まれ元の植物よりもかなりデフォルメされたものになっています。

このようにデフォルメされた植物の場合、単衣のきものであれば単衣の季節、袷のきものであれば袷の季節にというように、選べる柄になっています。

植物柄について、選ぶ時のひとつの考え方になったのではないでしょうか。

動物柄はどうする?

例1:干支の動物

たとえば、自分の干支の動物の柄で楽しむということもできます。

女将はイノシシ年なので、イノシシ柄のものを持っていて、この画像ではウリ坊の帯ですが、イノシシは季節に関係ない動物なので、通年で使うことができます。

ウサギや牛、犬、馬など干支の動物は、自分の干支のものを持っていると嬉しい感覚もあるかもしれませんし、可愛いデザインのものも多いので、話題のきっかけになることもあります。

例2:トンボ

植物の柄と同様に、デフォルメされたデザインのものであれば通年使用できますが、具象化されている柄や、季節の植物と一緒に描かれている柄の場合、その季節に合わせて選んだ方が良いです。

たとえば、このきものの場合、萩とススキとトンボが描かれているので、季節は秋になります。柄だけでいうと、季節を先取りするので、夏からの柄になります。そのため、絽のきもので、萩やトンボを描いてあるきものもあります。

例に示したきものは、シボの高くない縮緬地のきものなので、9月から10月まで着ています。

例3:雪だるま

雪だるまは動物ではありませんが、イメージとしては雪が降る季節に選ぶ柄になると思います。雪が降りそうなすごく寒い時、12月・1月・2月あたりの雪が多そうなイメージの時でしょう。

動物の場合、季節関係なく存在するものが多いので、通年使用できることが多いですが、トンボのような昆虫の場合や、季節感がイメージされるものについては、季節に合わせて選ぶと良いですね。

では、複数の植物が描かれているような柄の場合は、どうなのでしょうか。

複数の植物の柄はどうする?

季節が異なる複数の植物や動物が描かれていたり、具象化しているものとデフォルメされたものが複数描かれている柄の場合、どうすればよいのでしょうか。

例:デフォルメされた植物と具象化している植物と混在している柄


※画像で女将の前に置かれたきものの一番上のきものです

このきものの場合、デフォルメされた植物や季節もばらばらで複数の植物が描かれています。このような柄の場合、季節関係なく着られる便利な柄になります。

単衣のきものであれば単衣の季節に着られますし、袷のきものであれば袷の季節に着ることができます。

もし、一枚目の柄のきものを選ぶという時、花柄を選ぶのであれば、このように複数の植物が描かれている柄を選ぶと便利です。

着る場所や周りの人への配慮としても

きものや帯などどんな柄を選ぶのかは、本当に個人の好みで良いと思いますし、冒頭にお伝えした宇野千代さんのように、誰に何を言われても私は好きだから良いの、と言えるのであれば、何を選ぶのも個人の自由だと思っています。

自分ひとりでファッションとして楽しむ場ではそれでも存分に楽しめると思いますが、礼装で参加するような人に礼を尽くす場では異なってくるのではないでしょうか。

たとえば、訪問着の柄を選ぶとなると、着るシーンに合わせて柄に使われている植物の季節を調べたり、吉祥文様かどうかを調べるなど、少し柄目を意識すると周りの人に不愉快な思いをさせず安心かと思います。

また、お稽古ごとのお師匠さんがいるような場合は、お師匠さんの顔を立てることを考えるとか、その集まりやコミュニティのリーダーのような人の気持ちを考えるとか、周りの人への配慮として考えると知らないよりは知っていた方が、相手にとっても自分にとっても居ごこちの良い場として、楽しむことができるのではないでしょうか。

ここまでお伝えしてきたように、柄の意味、咲く季節、想いを知った上で、好きな柄、花、季節を自分らしく選んで着ることが大切で、楽しく、ここち良いと思います。今後のきものや帯の柄選びに、お役に立てたら嬉しいです。

40年以上のきもの生活で培った女将的な柄の決めごとをお届けしている動画はこちらをご覧ください。

【きものルールを大切にしつつ、自分らしく着るために!年中桜柄でも良いの?】たかはしきもの工房「ズボラ女将の和装の常識を斬る!」


更新情報はInstagramで発信していく予定です。
Instagramを登録されている方は、是非「たかはしきもの工房 オフィシャル(@takahashi__k)」のフォローをお願いいたします!

instagram