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意外と知らない「無双」って何?

無双とは
普段、きものを着ている中で、耳にしていても、なんとなくわかっているようで、よくわかっていない言葉って、ありますか?

その言葉の意味をきちんと知ることで、きっともっときものが楽しくなるようなきものの基本の言葉。

今回は、襦袢の「無双(むそう)」という言葉の意味とその使い分け方をお伝えしていきたいと思います。

「無双」って、業界の専門用語では?

襦袢(袖)には、「無双」や「半無双」、「単衣」と種類がありますが、「無双って、何?」と思われたことがあるのではないでしょうか。

ちなみに、辞書で「無双」の意味を調べると、

2 衣服の表と裏を同一の布地で仕立てること。また、そのもの。夢想。

引用元:「無双」の意味や使い方 わかりやすく解説 Weblio辞書

とあるように、きものの専門用語ではありません。でも、この意味で使われているのを他で耳にする機会はあまりないかと思います。

きもの用語で「無双」とは、二枚の同じ生地を表裏ぴったり合わせて仕立てられている状態のものです。

袷

長襦袢の場合、袖だけが二枚の生地になっていて、身ごろは一枚で居敷当てがついている(居敷当てがない場合もある)ので、長襦袢の身ごろは一枚だと思われている方も多いのではないでしょうか。

実は昔は、長襦袢もきもののように袷(無双)で仕立てられていました。今は、男物の長襦袢にその名残があります。しかし、昔に比べると気温が高いので、男物の長襦袢も胴抜きに仕立てる場合が多いと思います。
(胴抜き:袷仕立てから、胴=上半身に裏地をつけずに仕立てたもの)

時代の変化とともに、外からの見た目を変えずに、気候の変化などに対応してきたことで、袖だけが「無双」のまま残ったのでしょう。

適度な重さによる落ち感と温かさのある「無双」

「無双」は、同じ生地を二枚使って裏表両方をぴったり合わせて中に縫い込む形で作っているので、たくさんの生地を使います。

今は、襦袢地の長さは13.5mありますが、20年くらい前までは12mが一般的でした。この変化は、日本人の平均身長が高くなってきたことで、必要な生地が多くなったためでしょう。

「無双」の袖に必要な生地の長さは、袖丈が一尺三寸(約50cm)なので、約4.5mとなります。(50cm×4枚×両袖+縫いしろ分)

昔は、襦袢地の長さが12mだったので、およそ4割というかなりの面積を袖に使うことになります。そのため、昔は襦袢の胴裏には胴裏生地を使用していました。

今では、長襦袢をすべて「無双」にして仕立てることはあまりないと思います。袖だけ「無双」が残ったことで、「無双」とは袷の袖のことだと思っていて良いと思います。

無双の袖の「きせ」

「無双」の袖は、「毛抜きあわせ」という、二枚の生地を縫い合わせ、両方の布に縫い目から同分量の「きせ」をかけて仕立てています。「きせ」というのは、縫い目ギリギリで折り返さず、やや余りを持たせて折る、その余裕の部分のことです。

「無双」の良さは、適度な重さがあることで、落ち着きがいいですし、冬はもちろん暖かいです。
落ち感のある無双

特に落ち感は、見た目や着ごこちにも関わっていて、きもの上級者になってくると「無双」の落ち感が良いと感じる方もいらっしゃると思います。また、長襦袢が好きな方にも、そう感じられる方は多いかもしれません。

生地の節約と涼しさと軽さがある「半無双」

次に、「半無双」とはどういうものかと言えば簡単で、「無双」のふりをしているものです。
半無双は無双のふり

袖口部分は、「毛抜きあわせ」で縫っていて、袖の真ん中の生地を抜く仕立て方です。そのため、外から見えやすい袖口の部分は「無双」なので、見た目上は「無双」とあまり変わりません。

「半無双」の良さは、生地をかなり節約できることと、涼しく軽いことです。

長襦袢を仕立てる際、袖を「半無双」にすると袖一枚分の生地が節約できるので、その生地を半衿にできるぐらいになると思います。また、袖の真ん中が一枚になるので、暑さが少し軽減され、「無双」よりも軽くなります。

同じ「単衣」でも洗濯のしやすさに違いあり

最後に、袖の種類として「単衣」がありますが、「単衣」は一枚の生地で作られています。
単衣でも洗濯のしやすさに違いがある

袖の内側が生地の裏側そのままなので、表裏の生地の色が違うので「無双」や「半無双」との違いがわかりやすいです。

また、「単衣」の袖口には、次の三種類があります。
※襦袢の袖口についての詳しい内容はこちらの動画をご覧ください
【マニアック!意外と知らない袖の話『襦袢の袖口の縫い方編』】

1)「よりぐけ」
一番丁寧に縫っていてキレイな仕立て方で、生地を手で丸めたところをくけていくという大変な技術力が必要です。今ではほとんど見る機会がないそうです。

2)「三つ折りぐけ」
生地を三つに折って縫っていく仕立て方で、一般的な方法だと思います。

3)生地の耳をそのまま
生地の耳(ほつれないように始末されている端)を折り返さずに、そのまま使っています。夏物の絽や紗の生地でもよく見られます。

生地の耳をそのままいかした単衣の袖が出始めた頃、「手抜きしているようで嫌だ」という意見もあったそうですが、女将のお気に入りはこのタイプです。

その理由は、洗濯のしやすさです。折り返しによる段差がないために、汚れがつきにくいですし、ついても洗濯で落ちやすいのです。よりぐけや三つ折りぐけの場合、縫い目や折り目の段差に汚れがたまりやすく、たまった汚れが洗濯で落ちにくいので、袖口が黒ずみやすいです。

たかはしのお客さまには、このメリットをお伝えした上で、袖口を耳がそのままのタイプをおすすめしています。

「無双」「半無双」「単衣」の使い分け方

ここまで「無双」「半無双」「単衣」の違いをお伝えしてきましたが、いかがでしょうか。
これらの特長を踏まえて、季節での使い分け方をお伝えします。

まず、「無双」を使う時季は、きものの袷の季節です。その時季の中でも、真冬は「無双」で、きものを単衣で着るには早いけど気温が暖かいから、涼しさのために「半無双」を使うということもあると思います。もちろん、一年中、「半無双」でも構いませんし、袷の季節をずっと「無双」でも構いません。

ただし、何を選んで使うのかはお好みによりますし、自分の美意識でどこを一番と考えて選ぶのかを考えた方が良いです。

もしかしたら、着付け教室やお茶などの先生によっては、「よりぐけ」じゃないとダメよとおっしゃる方もいるかもしれませんが、まずは自分の一番の好みを優先しても良いのではないでしょうか。

元々は、長襦袢も袷だったものが、胴抜きになって生地が抜かれているように、きものも胴抜きで仕立てる方も増えています。

時代によって変化してきたものが、まことしやかに言われることもありますが、きものは衣類のひとつであり、ファッションなので、流動的に変化していきます。

たとえば、今はこれが正しいとか良いとか言われていることであっても、時代の変化の中で、変わっていくこともあるでしょう。逆に、今はまだ一般的だと思われていないことも、業界のファッションリーダー的な方々や、さまざまな見識を持った方々が、いろんなことを言う中で一般的なものになることもあると思います。

持ち前の旺盛な探求心と好奇心によって、いろんなことを考え、調べ、実験してきた中で、女将は動画で発信しております。ぜひ、きものの楽しみをもっともっと進めていただけるきっかけになれば嬉しいです。

「無双」についてしっかり解説している女将の動画はこちらをご覧ください。

【意外と知らないきもののキホン!「無双」ってなぁに?】たかはしきもの工房「ズボラ女将の和装の常識を斬る!」


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