「くり越しをしっかりとればえもんが抜ける」は大間違い
えもんを抜くのは「引く力」
今回はとってもマニアックなお話です。
着物を着ている方のお悩みで一番多いのが「えもんが抜けない」ということではないでしょうか?
ちゃんと抜いて着たはずなのに、いつの間にか詰まってしまう。
そんなとき、「くり越しを多めにとれば、えもんが抜ける」と言われたことはないでしょうか。
全く間違いとは言えないのですが、実はくり越しを多めにとる=えもんが抜けるということではないのです。
えもんが抜けない大きな原因はくり越しではありません。
くり越しってなに?
そもそもくり越しとはなんでしょうか?
着物は再生しやすいように、ハサミをいれる部分は最低限で済ませています。身頃は前身頃と後ろ身頃が繋がっていて、肩に縫い目はありません。
襟の部分は「衿肩あき」という切れ込みが入っています。「衿肩あき」は身頃をまっぷたつに折ったところに入っています。
これを肩の真ん中の線に持ってこないで、うしろにずらす分が「くり越し」なんです。
うしろにずらすと、当然裾は後ろが長くなります。なので、腰の部分で後ろにずらした分を摘んで縫って、前と後ろの裾の長さを合わせます。
なぜそんな面倒なことをするかというと、着物は解いてまた縫い直すことが前提だからです。前身頃と後ろ身頃を入れ替えたり、裏返したりすることができるよう、衿肩あきは真ん中にするのです。本当によく考えられている、もったいない文化の最たるものですね。
身丈が短いものなどに関しては、この摘んで縫う部分があるともったいないので最初からくり越しの分を勘案して、衿肩あきを後ろにずらして切ってしまうこともあります。東北では「切りくり越し」という言い方をしますが、それは本当に特殊な例で、通常は真ん中に切れ込みを入れて前後左右を同じにすることで、いろいろなくりまわしができるようにするのです。
そのずらした分「くり越し」はよく昔は5分(約2センチ弱)といいましたが、最近は7〜8分(約2.6〜3センチ)ぐらいが多いでしょうか。多い方は一寸(約3.8センチ)という方もいらっしゃいます。このくり越しをたくさんとるとえもんが抜けるという説ですが、そういうわけではないのです。
えもんが抜けない、えもんが詰まる原因は、生地の重さのバランスが違うからと考えられます。
きものを羽織っただけの状態で、ジャンプをしてみてください。それだけで、えもんは詰まって前に行きます。なぜでしょうか。答えは「きものは前のほうが生地の分量が多くて重いから」です。おくみもついているし、衿もついている。重い方にひっぱられるのが当然なのです。
なので、えもんを抜こうと思ったら、しっかりと引く力と摩擦力を使って前身頃の重さに負けないだけの力をかける意識をしなくてはだめなのです。
たかはしの幅の広いえもん抜きはそれを考えた形なのです。
えもんが綺麗に抜けている人は、紐で縛ってえもんを止めているわけではないのです。必ず後ろにきちんと「引く力」をかけているし、前も「持ち上げる」という方もいらっしゃいますよね。この「布にかける力」を意識して行うだけで、劇的に着付けは変わります。そして紐は「引く力を止めるために」あてているということを理解して欲しいのです。
くり越しはお好みです!
極端な話、くり越しをとらなくてもえもんは抜けます。
くり越しが少なめであれば肩線がうしろにぐっとずれます。肩線が肩のまんなかにあると、袖は袖山の線がまっすぐ張るため、裄が短く見えますし、肩が張って見えます。
肩線がうしろにずれると、袖山が立たずに裄が長めに見えますし、はんなりとしたラインになります。
そういう女将自身はくり越しを多めにとっています。
その理由はえもんを抜くと後ろのおはしょりのところのぶかぶかがほとんどなくなるからという理由です。でも肩線はあまり後ろにいかないので、はんなりしたラインは出ません。
はんなりとした見た目をとるか、おはしょりの処理の楽さをとるか。
どちらにするかということが、くり越しを決めるポイントとなってきます。
着物をお仕立てなさるときに、ぜひ参考にしていただければと思います。
えもんが抜けるのは、くり越しが多くとってあるからじゃない! 後ろ身頃にいかに下に引く力をかけるかなのです。
たかはしのえもん抜きやうそつき衿はその引く力を考えて作ってあるのです。こちらも一度お試しいただきたいアイテムです。宣伝になってしまいましたが、女将がこのくり越しについて熱く語っている動画はこちらです。
【超マニアック! 「えもん」と「くり越し」は関係ない!】たかはしきもの工房「ズボラ女将の和装の常識を斬る!」
とてもマニアックなお話ですが、よろしかったらご覧ください!
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